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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)164号 判決 1973年5月29日

原告 酒井康博

被告 東京法務局供託官

訴訟代理人 豊島徳二 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四七年五月一一日付で原告の昭和三八年度金第一一九三六七号供託金額金四〇〇〇万円供託金利息請求事件についてした請求却下決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二原告の請求原因

一  原告は、昭和三八年一二月一七日、東京地方裁判所昭和三八年(ヨ)第八一〇六号不動産仮処分申請事件の保証金として金四〇〇万を東京法務局に供託した(供託番号同局昭和三八年度金第一一九三六七号)が、被供託者の同意を得たうえ、同四七年五月一一日、同法務局に対し、右供託金の取戻しとともに、右供託金元本に対する昭和三九年一月一日から同四一年五月三一日まで法定の年二分四厘の割合による利息金二三万二〇〇〇円の払渡しの請求(以下「本件利息払渡請求」という。)をした。

二  ところが、被告は、右同日、原告の右利息請求権は時効により消滅したとして、本件利息払渡請求を却下する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。

三  しかしながら、本件決定は、供託金利息請求権の時効期間について判断を誤つた違法があるから、その取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否および主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一、二の事実は、いずれも認めるが、同三の点は争う。

二  被告の主張

1  保証として金銭を供託した場合における供託金利息については、供託法三条および本件に適用すべき旧供託規則(昭和四二年法務省令一五号による改正前の供託規則。以下「旧供託規則」という。)三四条二項により、「毎年五月末日において供託が一年以上継続するときは、同日までの利息を払い渡すことができる」ものと定められていて、第一回目と第二回目の間、あるいは第二回目と第三回目の間というような利息請求権発生の単位期間が年をもつて定められているから、同請求権については民法一六九条の適用がある。すなわち、民法一六九条所定の短期消滅時効の対象となるべき「年又は之より短き時期を以て定めたる金銭其他の物の給付を目的とする債権」とは、基本権たる定期金債権の発生後支分権が発生するに要する期間が一年以下であるものを指すのではなく、定期金債権を基本債権とする支分債権の発生が定期毎の債権であつて、その一定期間が年又はこれより短い期間で定められたものをいうと解すべきであるから、本件のように基本権の発生から第一回目の利息債権の発生までに一年五か月を要するものについても、同条の適用があるというべきである。

2  仮に、原告主張のように、民法一六九条所定の定期給付債権に該当するためには、基本権たる定期金債権の発生後支分権の発生に要する期間が、原則として、一年以下でなければならないとしても、保証供託金利息払渡請求権の消滅時効の期間については、民法一六九条を適用すべきである。けだし、保証供託金利息債権は毎年大量に継続して発生するところから、その支払事務は迅速確実に統一的に処理されなければならないのであり、その消滅時効期間についても、各支分債権ごとに区々に取り扱うのは相当でなく、画一的統一的に処理されるべきだからである。また、旧供託規則三四条二項によると、第一回目の利息払渡請求権について発生に要する期間が一年を超過することがあるが、これとて、供託事務の特殊性を考慮すれば、できるだけ早期に供託金利息の債権関係を決済して法律関係を安定させるのが相当であるから、保証供託金利息払渡請求権は、すべて民法一六九条の定期給付債権に該当すると解すべきである。さらに、旧供託規則一〇条三号によると、供託金利息請求書(供託金利息の領収書)の保存期間が利息支払いの翌年度から五年と定められていることからも、同規則が供託金利息払渡請求権の消滅時効期間を五年と予定していることが明らかである。

3  したがつて、本件利息払渡請求権は、そのうち、

(1) 昭和三九年一月から同四〇年五月までの分については、同四〇年六月一日に行使しうることになつたので、同四五年五月三一日の満了により、また、(2)同四〇年六月から同四一年五月までの分については、同四一年六月一日に行使しうることになつたので、同四六年五月三一日の満了により、それぞれ時効により消滅した。

第四被告の主張に対する原告の反論

一  民法一六九条所定の定期給付債権とは、一定の期間が経過するごとに発生する一定の物の給付を目的とする債権、すなわち、基本権たる定期債権から発生する支分権であつて、かつ、その支分権の発生に要する期間が一年以下であるものをいうと解すべきである。けだし、同法条が定期給付債権について短期消滅時効を定めた理由が、これらの債権は厳重に弁済しなければたちまち債権者に支障が生ずるのが常であり、慣習上債権者が長くその請求を怠ることや、債務者が長くその弁済を怠ることが少なく、その額も通常多額でないため、長くその受取証を保存する者も稀であることにあるからである。

二  ところで、本件利息払渡請求権において、第一回目の支分権たる利息債権が発生するについて一年五か月間を要したのであるから、民法一六九条所定の定期給付債権でないことは明からである。したがつて被告の主張は失当である。

第五証拠関係<省略>

理由

一  請求原因一および二の事実(本件決定の経緯等)は、当事者間に争いがない。

二  そこで本件決定が違法であるか否かについて検討する。

1  民法一六九条の規定する「年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金銭其他ノ物ノ給付ヲ目的トスル債権」とは定期金債権を基本債権とする定期的給付を目的とする支分債権で、その支分債権発生の単位期間が一年以下の一定期間をもつて定められているものを指称するのであつて、その基本債権の発生から第一回の支分債権の発生までに要する期間がどのように定められているかは問わないものと解すべきことは、本条の立法趣旨が支分債権自体の短期決済性およびそれに基づく証拠保全の困難性に由来することにかんがみ、明らかである。

ところで、保証供託金の利息については、供託法三条および供託規則附則(昭和四二年法務省令一五号による)二項但書により本件に適用すべき旧供託規則三四条二項によれば、毎年五月末日において供託が一年以上継続するときは、同日までの利息を払い渡すべき旨が定められているのであるから、供託金の供託後支分債権たる利息債権の発生までに要する期間が一年をこえることがあるとしても、利息債権発生の単位期間は常に一年であつて、右債権は、民法一六九条所定の定期給付債権に該当するものというべきである。

2  そこで、本件利息請求権についてこれをみると、旧供託規則三四条二項によれば、(1)昭和三九年一月から同四〇年五月までの利息については、同四〇年六月一日以降その払渡請求権を行使することができ、(2)同四〇年六月から同四一年五月までの利息については、同四一年六月一日以降その払渡請求権を行使することができるのであるから、それぞれ右各時点から五年経過した時、すなわち、(1)の利息請求権については同四五年五月三一日、(2)の利息請求権については同四六年五月三一日の各経過により、それぞれ消滅時効が完成したものということができる。

3  してみると、本件利息請求権が時効により消滅したことを理由として本件利息払渡請求を却下した本件決定に違法はないものというべきである。

三  よつて、原告の本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 加藤和夫 石川善則)

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